最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)463号 判決 1960年9月01日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人松岡一章の上告理由について。
しかし投票管理者または投票立会人が当該選挙の代理投票の補助者となることは、そのこと自体決して好ましいことではないが、いまだもつて選挙の規定に違反するものであるとはいえない。ただ本件におけるが如く、投票管理者が投票立会人の意見を聞かないで、自己の一存で投票立会人を代理投票の補助者に選任し、自らもその補助者の一人となつて代理投票を行つた場合、もしくはそのため(投票立会人の意見を聞いてした場合であつても)投票管理者または投票立会人の法定数を欠き、投票管理者または投票立会人の職務遂行に支障を生ずるような事態が発生した場合は選挙の規定違反の問題が起るに過ぎない。
しかるところ、原審の確定したところによれば、本件においては、所論二四個所の投票所のうち新見市第二投票所を除く二三個所では、投票立会人がそれぞれ代理投票の補助者となつた事実があるが、投票立会人の意見を聞かずにその補助者に選任された事実は確認されず、投票管理者が自らその補助者となつて代理投票を行つた事実は認められないというのである。
ただ右第二投票所においては、投票管理者が候補者の長男であつて、しかも投票立会人の意見を聞かず、自己の一存で投票立会人の一人を代理投票の補助者に選任して合計一七票の代理投票を行わしめ、自らもその補助者の一人となつて右一七票のうち六票について代理投票を行つた事実を認めることができ、右の場合、投票管理者がその職務代理者に現に自己の職務代行を命じなかつたために、その補助事務に従事中投票管理者の職務執行者を欠いだ形になつたこと、および投票立会人の定員を補充しなかつたため、その補助事務に従事中投票立会人の法定数を欠いだ事実を認めることができるが、当時同投票所の実情は判示の如き状況であつたため、投票管理者および投票立会人の職務遂行上特に支障を生ずべき事情は見受けられなかつたというのであり、その余の所論二三個所においても投票立会人の法定数を欠いだことにはなつたが、そのために投票監視等の職務遂行上支障を生ぜしめた事実は認められないというのである。
かかる事実関係の下において、原判決が右の如き事態はいずれも選挙の規定に違反するものではあるが、違反の程度は極めて軽微であり、そのために代理投票そのものの効力に影響を及ぼすことがあるのは格別、当該選挙の結果に異動を及ぼすおそれがなく、当該選挙の全部を無効にしなければならぬわけのものではないと判示したのは、その確定した事実関係に徴し正当として是認できなくはない(昭和三二年(オ)七五〇号、同年一一月七日当法廷判決、集一一巻一二号一八八七頁参照)。
所論はひつきよう原審の専権に属する証拠の取捨判断および事実認定を争い、もしくは原審の判示に副わない事実を前提とし、独自の見解に立つて原判決を非難するに帰するから採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)